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ねぎとろ丼

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神徳ファンタスティカ 3-3


 ※こちらは『神徳ファンタスティカ 3-2』の続きです。



「ああ……頭が痛い」
 目が覚めると自分の部屋らしきところで横になっていた。頭痛がする。気分が悪い。
 何がどうなって、今寝ていたのか全く覚えていない。
 今は何時ぐらいなのか。時計は三時過ぎを指したところで止まっていた。電池が切れていたらしい。
 起き上がるのも辛かった。かといって寝ているわけにはいかない。
 私は巫女らしい私に生まれ変わり、立派に勤めを果たすと決意したのだから。
 蛙と蛇の髪飾りをつけ、身支度を整える。昨日は確かお酒を呑んだところで……。
 とにかく、私は今寝間着だった。誰かに着替えてもらったのだろう。恐らく、神奈子様だ。
 台所へ行き、蛇口を捻って水を飲んだ。冷たい。美味い。まるで水道水じゃないみたいだ。
 あれ? そういえば水道って使えてたっけ? ああ、河童が使えるように工事してくれたのか。ありがたい。
 神奈子様を探して家の中を歩き回っていると、誰かの足音が聞こえてきた。
 その方向へ追いかけると納戸へぶつかったのだが、誰も居なかった。おかしい、とことこ歩く音が聞こえたのに。
「どうしたんだい、早苗」
「あ、おはようございます」
「うん、おはよう。狐にでもつままれたかい?」
「確かに誰か居たと思ったんですが」
「そう……。とにかく、お腹を膨らませたら里の農家へ挨拶に行こうと思うんだが、どうする? 気分悪いならまた今度にするよ」
「いえ、大丈夫です。買い置きの頭痛薬飲めば平気です。行きましょう!」
「まあ、無理はしないようにね」
 居間へ行くとテーブルの上には大きなジャガイモが六つほど置かれていた。
「これ、どうしたんですか?」
「麓の方の穣子と静葉のところへ行って恵んでもらったのさ。穣子の方が豊穣神だったんでね、食う物がないって言ったら分けてくれたんだよ」
「そうなんですか、またお礼言いにいかないといけませんね! でもこれ、どうやって食べましょう」
「茹でてくれれば良いよ。んで塩でも振って食えばお腹は膨れるよ」
「わかりました!」
 とは言ったものの、どうやって火をつければ良いのだろうか。
 台所の方を向いてみると、新しく置かれたであろう釜があった。
「そこに火をつけてやれば良いのよ。昨日お風呂入れるときにやっただろう?」
「あ、なるほど」
 釜の周りだけ床が石張りになっていた。ここまで工事してくれていたとは。もう河童に足を向けて寝ることは出来ない。
 神奈子様の言うとおりに調理し、茹でたジャガイモを頂いた朝食。
 これから毎日の様に巫女服を着ることになるだろうから、替えがたくさん必要かもしれない。
 里の服屋に特注で作ってもらう必要があるだろう。
 今日の予定は農家を回っていくこと。その前にまた妖怪らと話をすると仰っているが。
 それが終わったら暇になるから、また里をうろうろしてみたい。
「そうそう早苗、今朝玄関に新聞が来ていたよ。そこに置いてある奴さ」
 新聞なんて取ったつもりはないのだが、どうも天狗が書いた新聞の様である。勝手に投函されるのか。
 新聞と言っても一つ一つは大して大きくないし、ページ数も無い。個人で出したものらしいから、そんなものか。
 でも数が多い。ざっと見て二十部ぐらいある。全部違うものだ。
 どれもこれも、昨日私が文さんと弾幕ごっこしたことが大きく取り上げられている。
 「新参巫女、烏天狗を華麗に打倒」「風祝の東風谷、美麗な弾幕を披露」「新参者に負けた烏天狗 本気じゃなかった等と言い訳」などなど。
 文さんが書いたと思われる新聞は無かった。
「早苗に負けたあの天狗の新聞はないね。どんなことを書くのか楽しみだったんだけど」
 新聞記事では私のことをえらく派手に書いていた。百年に一度の逸材だとか、疾風怒涛の強さを見せ付けたとか。
 私はそんなつもりないのに。はっきり言って恥ずかしい。
 そして気付いたことがある。どの記事も「博麗の巫女」という単語を絡めた文章でまとめているのだ。
「あの、神奈子様。博麗の巫女って何なんですかね?」
「ああ、それね。今朝飛んでるのをチラっと見たよ。昔から幻想郷に居てる奴みたいでね」
「ふーん」
「それで巫女の後を追ってみたんだけどね、随分と寂れた神社に住んでるのよ。あそこに居る神はきっと辛い思いをしているんじゃないかしら。信仰なんてこれっぽっちしか得られてないと思うわ」
「神奈子様?」
「私はあの神社を乗っ取ってみたいねぇ」
「え!? そんなことして、大丈夫なんですか?」
「消えそうな神を助けることになるんだ。向こうにとっても、悪い話じゃないと思うんだよねえ」
「でもそれって、どうやるんですか?」
「向こうの神社を止めてもらうんだよ。後はこっちでやるわ。何なら今すぐ挨拶がてら行ってきてくれない? 博麗神社ってところに行って来てくれれば良いから」
「そうですか、わかりました」
「一人でいけるかい?」
「大丈夫です! やれます!」
「まあ、そんな気張るようなお使いにならないと思うけどね。私はちょっと妖怪らと話つける用事があるから、終わったらまた帰ってきてくれるかい? 私もすぐに帰ってくるだろうけど。それが終わったら服屋とか、農家回りに行こう」
「はい」

 幻想郷に来てから初めて一人での外出。神奈子様が妖怪に気をつけろと仰った。
 昨日みたいな感じでやっつけられたら一番だが、正直言ってまだ不安である。
 無理せず逃げても良いと言っていただけたので、もし襲われたらそうしよう。
 早速出発。山を降りる最中に河童や雛様を見かけたので挨拶をしていった。
 博麗とつく神社の場所は里の人らに訊いて行った。
 道中蟲の妖怪とすれ違ったのだが、神奈子様のアドバイス通りスルーすることにした。
 昨日闘った文さんの弾幕と比べると随分とお粗末だったので、逃げるのは簡単だった。

 博麗神社に到着。石畳の階段の隙間から草が一杯生えている。
 よっぽど手入れされていないのだろう。境内の中はそれほどでもないが、ちょっと酷いと思った。
 本殿前、賽銭箱の上にある鈴を鳴らすときに引っ張る鈴の緒が殆ど千切れかかっている。
 とりあえず参拝させて頂いたが、この神社から感じる神様の気配はすごく微弱なものだった。
 確かにこれは神奈子様の言うとおり、ここにおわす神様が可哀想だ。
「おはよう、よく来……あれ? 巫女?」
 どうやら博麗の巫女さん登場らしい。なるほど、紅白だ。
 うちの特注の巫女服とは違って、普通の巫女服みたいな配色。
 神社はかなりオンボロではあるが、ここで働いているだろう巫女さん自体は凛々しい表情をしている。
「おはようございます、博麗の巫女さん。この神社を止めてもらいたくて来ました」
「はぁ!? 止めるって、どういうことよ!」
 あからさまに不機嫌そうな顔。それもそうか。見ず知らずの人からいきなり辞めろと言われれば誰だって困惑する。
「はっきり言ってこの神社におわす神様が可哀想です」
「……」
 博麗さんは黙ってしまった。真面目にやっていない、という自覚はあるらしい。
「つきましてはこの神社を無くしてしまうか、うちの神社に乗っ取らせて頂きます!」
「なっ! うちのって、どこよ!」
「山の上に新しく出来た、守矢神社です!」
「……ちょっと待ってよ。私聞いてない」
「今すぐに決めろ、とは言いません。ですが、考えておいてください」
「……」
 振り返り、相手の次の言葉を待たずに飛び立った。たぶんこれで良いのだろう。
 帰り道、さっき会った蟲の妖怪にまた喧嘩を売られた。さっきよりかは密度の濃い弾幕を放たれる。
 無視されたのが気に入らなかったのだろう。それでも今の私には敵じゃなかった。
 昨日の感覚を思い出しながらすり抜け、一気に山を目指した。薬が効いていたのか、もう頭痛は消えていた。

 神社に戻ると神奈子様は戻られていた。本殿の前で私を待っていらした様子。
 手には小さな祠を持っていらっしゃる。昨日言っていた、分社を里に置いておく件で使うのだろう。
「神奈子様! ただいま戻りました!」
「おかえり。向こうは何て言ってきた?」
「驚きの余り言葉を失っていました」
「ほう? まあ、そりゃそうだろうね。どういう返事が来るのか楽しみにしておこう。もう出られるかい?」
「はい。頭痛も引いてきましたし、大丈夫です」
 神奈子様の後をついて行き、山の麓から所々に見える農家を一軒ずつ訪問。
 その途中穣子様と静葉様の祠へ参拝しに行く人を見かけた。
 畑を見に行くと、丁度収穫の時期だったらしい。皆稲刈りに忙しそうだった。
 今挨拶周りするのは彼らの仕事の邪魔をすることになるだろうから、と先に里をぶらついても良いことになった。
 私は予定通り服屋へ行き、服の特注をお願いした。とりあえず三、四着は欲しい。
 だが向こうは十着を勧めてきた。というのも、弾幕ごっこすると服がボロボロになるよ、と教えてくれたのだ。
 神奈子様はその間に分社の設置をされに行かれた。
 服の型紙を作りたいので服を貸して欲しいと言われ、代わりの服を貸してもらった。
 白いブラウスと紺のプリーツスカート。学校の制服を思い出し、懐かしい感じに浸る。
 まだこちらに来てからそんなに時間も経っていないのに。
 そして女性用のドロワーズも売られていたので購入。お代金はツケである。
 神奈子様はすぐに戻ってきた。昼食は里の酒屋が並ぶ通りの端にあった、大衆食堂。
 私も神奈子様も山菜ご飯定食を頼んだ。
 コロッケやトンカツ等揚げ物の惣菜を思い出しながら、塩分の効いた漬物を美味しく頂いた。
 その後本屋へ行き、ここにはどんな本が売られているのか見に行った。
 新書コーナーには人間と妖怪の禁断の愛を物語った本や、ある妖怪退治屋のシリーズものの小説が置かれていたり。
 幻想郷の地図というのも売られていた。人里にある酒屋をまとめた本もあった。
 私は恋愛小説の棚にあった、人間と神様が愛を誓い合う話の小説を神奈子様にねだった。

 夕方。服屋を訪ねると型紙は出来上がっていたので、服は返してもらえた。
 十着作って欲しいと言うと三週間は待って欲しいと言われた。
 ただ出来上がった分だけでもその都度取りに来てくれれば渡してくれるとのこと。
 届けに行くこともしたいとは言ってくれたが、こっちの神社は山の上。
 服屋の主人が妖怪に襲われるのも困るので、届けなくても良いと言った。

 服屋の用事が終わったところで農家を回ることにした。
 今の時間ならもう仕事を終えて家で休んでいる頃だろうと、神奈子様が仰った。
 実際行ってみると、どこの家もそんな感じ。奥さんが夕食の用意をし、旦那さんは内職をしたりゴロゴロしていた。

「ごめんください」
「はい、はい」
 今来た農家は里から一番遠いところにある。山の麓に最も近いとも言える。出てきた人は四十台ぐらいの女性だった。
 少し痩せている。家の中には旦那さんらしき男性が居た。その男性は逆に少し太り気味であった。
 子供は居ないようである。
「わ」
 女性が驚いた。奥に居た男性も驚いた。
「見たことのない巫女が来たわよ!」
「あ、ああ……」
 前にも思ったが、やはり幻想郷では巫女というのが相当特殊な職業らしい。
 普通の人がここまで驚くとなると、ちょっとした優越感に浸れる。
「私は東風谷早苗と言います。こちらにいらっしゃるのがお仕えさせて頂いている、八坂神奈子様です」
「どうも、山の上の神である八坂神奈子よ」
「神様でいらっしゃいましたか! おいお前、酒だ、酒を持ってこい」
「はいあなた!」
「お酒くれるのかい? ありがたいねえ!」
 家の人に酒を勧められ、大喜びの神奈子様。すでに回ってきた家々でも酒を振舞われ、呑んでこられたというのに。
「私を信仰してくれるっていうなら、五穀豊穣から安産祈願まで色々ご利益あるわよ」
「それはそれは! でも、すでに秋穣子様という豊穣神様がおられるのですが……」
「大丈夫! 一緒に協力するってことになっているから!」
 そんな話は聞いたことが無い。
 でも穣子様、静葉様と初めてお会いしたとき神奈子様と穣子様がそういう話をされた、というのなら納得する。
 日本の神教というのは基本的にどんな神様を信仰しても良い。
 中には「私を信仰しないのなら呪ってやる」みたいな祟り神も居るらしいのだが、大抵は問題ない。
 「他の神様に参拝するのも良いけど、こっちも構ってね」という気楽なものである。
 神奈子様はご利益が被ってるけど「一緒に頑張ってるんで」ということにして、ついでに信仰してもらおうということなのかもしれない。
 もちろん真意はわからない。神奈子様の考えていること、神様の考えていることなんて人間には計り知れないだろうし。
「それじゃあ、うちの神社をよろしくね。里の北の端にうちの分社を建てたから」
「それはそれは! 是非とも!」
 家の人にお別れを告げ、最後の農家を後にする。

 それぞれの農家から頂いた野菜類、穀物類を夕食にするつもりである。
 神社に帰ったら掃除を少しだけし、お風呂を済ませて夕食の準備。
 たまにはお肉が食べたい。ヘルスィーな鶏肉とか食べたい。でもそういう贅沢は言ってられないのだろう。
 神奈子様は窓から幻想郷の夜の景色を眺めておられる。
 釜に火をつけようと思って火付け道具に手を伸ばした瞬間、何者かに手を掴まれた。
「ひっ!」
 白い、レース素材のような手袋をつけていた。顔を上げると、帽子を被った金髪の女性と目が合う。
 何とも言い表せない、空間の裂け目みたいなところからするっと出てきた。
「こんばんは」
「え」
 私は目の前の女性から引き剥がされた。神奈子様が私を目の前の女性から離したのだ。
 息を荒げておいでだった。その顔からは焦りというか、恐怖を感じられた。
「あらー、そんなに邪険にしなくても」
「何者!」
「か、神奈子様?」
 神奈子様が私を庇っている。目の前の女性は一体何者だというのだ。
 何もないところから出てきて、確かに不気味な人だというのは感じられるが。
 いや、他に感じられるものがある。妖怪の気配だ。目の前の女性は妖怪なのかもしれない。
 気配に気付いたところで、どれだけ強い気配を発しているのかがわかってきた。
 鳥肌が立った。脚が震えている。汗が止まらない。息苦しい。怖い。助けて。
 この目の前にいる妖怪、ものすごく強そうだ。
「何の用で来たのよ!」
「挨拶に来ただけなのに」
「早苗に何をした!」
「何もしてないわよ。私を見て、勝手に怖がってるだけじゃないの?」
 近くに置いてある御幣に飛びつき、金髪の妖怪に向けた。
「だから挨拶に来ただけって言ってるじゃない。そんなに緊張しないで」
 確かに攻撃はしていない。もしかしたら私は脅かされただけなのかもしれない。
 そう思って御幣を下ろしたとき、彼女の手で首を締め付けられていた。
 彼女は神奈子様の向こう側に居るというのに、何故今私は彼女の手で攻撃されているのか。
 彼女の右腕の先だけ消えていた。彼女は右手だけ切り離し、動かしているとでも言うのだろうか。
「早苗を離しなさい!」
 神奈子様が彼女を押し倒そうとする。だが彼女はいつの間にか私の目の前に現れた。
「私は八雲紫、幻想郷の境界に潜む妖怪です」
「こんのっ……!」
 神奈子様がこっちに来ているのがわかった。直後、神奈子様が私を殴ろうとしている格好になっていた。
 妖怪は目の前から消えている。目を瞑った。静寂。目を開ける。
 すんでのところで神奈子様の拳は止まっていた。
 そして妖怪は神奈子様の後ろで扇子を開き、微笑んでいた。
 首が楽になっているのに気付き、本能的に咳き込んだ。
「何が目的なの!」
「だから言ったじゃない。挨拶だって」
「げほ、げほ。一体何がどうなってるんですか……」
 彼女は何も言わず、座布団のところへ座り込んだ。
 いつ何をしてくるかわからない。私はまた彼女に御幣を向けた。
「幻想郷に流れ着いた者達を見に来ただけなのよ、本当に」
「黙れ!」
 神奈子様がもう一度飛びつく。彼女は神奈子様の突進を受け止めた。
 御柱を振り回せるほどの怪力をお持ちの神奈子様と押し合いをしして涼しい顔をしているとは、一体この妖怪は何なのだ?
「この神社は来客に対してお茶を出さないの? 博麗神社でも悪態つかせながらだけど、お茶は出るのに」
「妖怪に出す茶なんてない!」
 神奈子様の激しい怒りを感じる。神奈子様、頑張れ。こんな妖怪やっつけて欲しい。
 だが神奈子様はそれ以上攻撃しなかった。服を正し、妖怪の前に座り込まれた。
「……本当に挨拶しに来ただけかい?」
「ええ。あなたの巫女に手を出したことに関しては謝るわ。ごめんなさいね」
「……」
「すごく良さそうな子ね」
「ああ……自慢の巫女だよ。早苗、お茶を入れてあげな」
「え? あ、はい」
 神奈子様の気が変わったご様子。神奈子様がそう仰るなら私はお茶を淹れてくるが。
 淹れ立ての熱いお茶を差し出すと、すごく優しそうな笑顔でありがとうとお礼を言われた。
「私は八坂神奈子。外の世界で生きられなくなったから、こっちに来た神だ」
「そう。私は結界の境界を管理している者なの」
「結界?」
「あなた達はここへ来てまだ日が浅いから気付かなかったのかもしれないけどね、ここ幻想郷は博麗大結界という結界を用いて外の世界と隔離しているのよ」
「一体何のために?」
「幻想となり、消えゆく妖怪や神々を守るために」
 神奈子様と彼女、紫さんとの話はそれで終わった。紫さんがお茶を飲み干すのを待つだけ。沈黙が続く。
 彼女が帰るときも何もない所にすっと入って行き、跡形もなく消えた。
「早苗、怪我は無かったかい?」
「は、はい……たぶん。何だったんでしょうね、今の」
「さあね。でも本当に早苗を殺す気は無かったのかもしれない。あいつの言った通り、ただ挨拶しに来ただけかもね」
 そういえば紫さんは「博麗大結界」というのを口にしたか。博麗神社と何か関係のあるものなのだろうか。
 あの神社はどう見てもくたびれた神社としか思えないが、想像以上に重要な神社なのかもしれない。
 その神社の営業を辞めろと言いに行ったから、それを取り下げろと言いに来たのだろうか?

   ※ ※ ※

 あれから数日後、紅白の巫女と白黒の魔法使いがうちの神社に攻めてきた。
 私は神奈子様の巫女として闘ったが、彼女らの強さは圧倒的だった。
 「あらひとがみさん」と呼ばれたりした私よりもずっと強かった。
 おまけに彼女らは私と同じ人間だという。さらに彼女らはあの神奈子様を打ち破ってしまったのだ。
 私は自分の無力さに打ちひしがれた。結局博麗神社はそのままである。
 ただ、神奈子様の勧めで博麗神社にうちの分社を置いておくことになった。
 霊夢さんの方も神奈子様の方も「信仰が欲しい」という目的は一緒なので、協力するといった形に落ち着いた。
 どうやら神奈子様は元々博麗神社を乗っ取るとまでは考えておいでではなかったらしい。
 ちょっと言い方が酷かったと、後になって恥ずかしそうに仰ってきた。
 神奈子様は妖怪らからの信仰を得ると同時に人間達からも信仰を得ないと大変なことになると仰った。
 その辺の詳しい話は私にはちょっと理解できない。
 何はともあれ、一悶着が過ぎたのだ。ちょっとは落ち着くだろうか。
 落ち着かないだろう。この幻想郷では常に異変が起きたりする、と聞くから。

   ※ ※ ※

 風邪を引いた。熱もある。鼻水が止まらない。
 新天地に体が慣れていないせいだ、と神奈子様が連れてきた天狗の医者は言った。
 とにかく薬を飲んで寝ているしかない。天狗の医者が処方した薬は臭いが酷く、えらく苦いものだった。
 そんなときである。うちの神社に霊夢さんが遊びに来たらしいのだ。
 神奈子様は彼女の気配を察知すると、何故か焦ったような表情で慌てて出て行かれた。
 暫くすると外で大きな音がした。弾幕ごっこの音だろう。窓から外を見てみると神奈子様が押されているところだった。
 やっぱりあの巫女はすごいのだろう。いくら「遊び」だとしても神様を倒してしまうなんて。
 霊夢さんは本殿の方へ飛んでいかれた。神奈子様は霊夢さんに向かって何度も「行くな」と叫んでおられる。
 気だるい体を引っ張って神奈子様の傍へ行ってみた。
「さ、早苗! 寝てないと駄目だろう!」
「神奈子様、何を必死になっているのですか?」
「いや……」
「?」
「あの巫女、もう本殿に着いてしまうか。それならもう隠しきれないね」
「隠す?」
「見ていればわかるよ」
 霊夢さんが本殿の前に到着。するとどうだろう、中から小さな女の子が現れた。
 違う、気配でわかる。あれは神様だ。あの方は誰? うちの神社にもう一柱の神様が居られるなんて知らない。
 大きな帽子を被っておられる。幼い顔立ち。蛙っぽいところ。
 頭の中に引っかかるものがある。おかしい、私はあの方と会ったことがある気がする。
 ああ、思い出した。思い出してきた。私は蛙の髪飾りを手に取って見つめた。
 あの神様が霊夢さんに負けかけている。あの神様──いや、あの子が押されている。がんばれ。ああ、でも負けてしまった。
 霊夢さんとあの子が二、三言葉を交わすと霊夢さんは帰って行った。急いであの子に駆け寄る。
「あの!」
「ん?」
 見れば見るほど思い出してくる。近くで見て確信が持てた。この子は昔一緒に遊んだあの子だ。
「あれ、早苗。私が見えるんだ」
「え? あ、はい! 見えていますよ! 諏訪子……ちゃん!」
「えへへ! そっちからすれば久しぶりなのかな? こっちはいつも見ていたんだけどね」
 私は嬉しさの余り飛びついた。だって目の前に小さい頃仲良く遊んだ子が居るのだから。
「今でも私のあげた髪飾り大事にしてくれてるんだね。嬉しいよ」
 でもまさか諏訪子ちゃんが神様だとは考えもしなかった。
 おっと? 体の調子がおかしい。そういえば私は熱が出ていたっけ。
「そういえば風邪引いてたんだってね。無理せず休んでないと駄目だよ。私が部屋まで運んであげるからね」
 猛烈なだるさから意識が落ちそうになる。折角会えたのに。もっとお喋りしたいのに。
 あのときあそこで遊んだよねって話をしたいのに。
「大丈夫。もう消えたりしないから」
 とうとう意識は落ちた。

   ※ ※ ※

 あれから数日後。私の風邪は治った。
 後で諏訪子……様から話を聞いたところによると、信仰が極端に薄れてしまったがために私ですら諏訪子様の姿を見られなくなってしまったということだそうだ。
 だから会えなくなったわけではなかった。いつも傍に居てくださって、私のことを見ていらしたのだ。

 両親はどうしているのだろうか。ミヨコさんは元気でやっているのだろうか。確かめる術はない。
 今の私にはこうやって時々思い出すことしか出来ない。
 何より幻想郷に生きる風祝の巫女として毎日を生きるので精一杯。
 机の引き出しに携帯電話の電源を切って仕舞っていたことを思い出したが、もう触る必要はない。
 この先二度と諏訪子様が消えたりしないよう、神奈子様を弱らせたりすることのないよう、巫女として信仰を得るための努力を続けさせて頂きたい。



あとがき

 さなしずちゅっちゅ。


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